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岡山地方裁判所 昭和40年(行ウ)9号 判決 1974年3月20日

倉敷市児島赤崎一、八六〇番地

原告

中塚実男

右訴訟代理人弁護士

甲元恒也

倉敷市児島味野一、六〇〇番地

被告

児島税務署長

磯崎良夫

右指定代理人検事

大道友彦

同岡山地方法務局訟務課長

門阪宗還

同大蔵事務官

藤田敏雄

藤森義明

同法務事務官

土肥一之

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告が昭和三九年一〇月二日付で原告の昭和三七年度分の所得税について、その所得金額四一三万五二四八円、所得税額一一九万四三八〇円としてなした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は縫製品の製造販売業等を営んでいた者であるが、昭和三七年度(同年一月一日から同年一二月末日まで)の所得につき所得金額を一〇〇万円、所得税額を一〇万六六〇〇円とする確定申告書を被告に提出したが、これに対し被告は、昭和三九年一〇月二日付で右所得金額を四一三万五二四八円、所得税額を一一九万四三八〇円とする更正処分および過少申告加算税五万四三五〇円の賦課決定処分(以下本件課税処分という)をなし、同日頃原告に通知した。

2. 原告はこれに対し同年一一月三日頃被告に異議申立をしたが、被告は、昭和四〇年二月一日付でこれを棄却する旨の決定をした。さらに原告は同年三月二日頃広島国税局長に対し審査請求をしたが、同国税局長は同年七月九日付でこれを棄却する旨の裁決をなし、その旨原告に通知した。

3. しかし、本件更正処分は推計課税が許されるべき場合でないのにこれをなした違法があり、然らずとするも推計課税の計算が合理性を欠いている違法があるから取消さるべきであり、本件更正処分に伴つてなされた過少申告加算税賦課決定処分も違法であり取消さるべきである。

二、請求原因に対する答弁

1. 請求原因1.の事実は認める。

2. 同2.の事実は認める。

3. 同3.は争う。

三、抗弁

1. 被告が原告の昭和三七年分の所得税確定申告書の提出に伴い、その事業所得を調査したところ、原告は基本的帳簿である金銭出納簿を備え付けておらず、経費明細表も昭和三七年八月分以降について記帳がなされているだけで、それ以前については記帳ががなされておらず、昭和三七年一月から同年七月までの期間については領収書、請求書、納品書等の保存がなされていないなど帳簿書類の備え付け、記録、保存が完全でないうえ、被告の調査に当つてはこれらの帳簿書類を全部焼いてしまつたため見せることができないとしてその提出に全く応じなかつたため(原告は異議申立に際し売掛帳、買掛帳、領収証綴を提出したが、その内容はきわめて断片的なもので、しかも最も大口の東京出張所関係の売上げについては帳簿書類を提出せず、審査請求に際しても損益計算書、外注工賃経費の明細表を提出しただけで、これを裏付ける原始記録を全く提出しなかつた。)、実額計算によつてその事業所得金額を計算することができず、やむをえず推計計算によつて本件課税処分を行なつた。

2.(一) 原告が縫製品の製造に使用した原材料額は八三九一万〇九〇四円であるので、これを原告と営業規模、業態、経済圏、地理的条件を同じくする同業者の縫製品販売収入金額に対する使用原材料額の平均比率で除して、原告の縫製品製造販売収入一億二〇九〇万九〇八三円を算出し、さらに右収入以外に仕入商品販売収入一三万五八一〇円、工賃収入一一万二三六五円があるのでこれらの各収入金額に対し広島国税局で算出した縫製品製造販売収入については七・九パーセント、仕入商品販売収入については二・〇パーセント、工賃収入については一九・〇パーセントの所得標準率を乗じてそれぞれ所得金額を算出し、その合計額九五七万五八二八円から右所得標準率に加味されていない雇人費一二一万三〇〇〇円減価償却費三四万〇六八八円、地代家賃七二万円、借入金利子および割引料二六八万五三五六円、貸倒金一八二万二三〇〇円合計六七八万一三四四円の標準外経費を控除し、さらに右収入のほか雑収入一五八万二五八二円があるのでこれより縫製品販売収入に対する所得標準中に含まれている雑収入率〇・二パーセントに相当する二四万一八一八円を控除した残額一三四万〇七六四円を加算し、原告総所得金額四一三万五二四八円を算出したうえ、基礎九万七五〇〇円、配偶者九万七五〇〇円、扶養九万円、社会保険料三〇〇〇円合計二八万八〇〇〇円の所得控除を行なつた後の課税総所得額三八四万七二〇〇円(一〇〇円未満切捨て)に対する所得税額一一九万四三八〇円を算出して本件更正処分を行うとともに、原告の申告税額が一〇万六六〇〇円であるのでこれを控除した残額一〇八万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)に対する五パーセントの過少申告加算税五万四三五〇円をあわせて課することにしたものであるからいずれも適法な課税処分である。

(二) 右推計計算が正当でないとしても、原告が異議申立および審査請求に際して申し立てた商品販売収入額は一億三一八四万四八八〇円であるので、これに対し原告と経済圏および経営規模を同じくする同業法人四社の収入金額に対する個人換算算出所得の割合の平均値九・二パーセントを乗じて算出した所得金額一二一二万九七二八円から所得標準率に加味されていない前記標準外経費六七八万一三四四円を控除し、さらに右商品販売収入のほかの原告の雑収入(リベート収入)一六〇万〇五八二円を加算して所得金額を算出すると六九四万八九六六円となるので右所得金額の範囲内でなされた本件更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法な課税処分である。

四、抗弁に対する答弁と反論

1. 抗弁1.の事実は否認する。

所得課税の原則は実額課税にある。ところで、推計課税はいわば見積りによる課税を許すものであるため、推計に誤りがあれば、納税者がこれを覆すに足る資料を欠くときは実額以上の課税を甘受させざるをえないこととなるものであるから、推計課税は、納税者が帳簿書類を全く有しないか或いはそれに類する場合またはその帳簿書類の提出を一切拒否した場合にはじめて行なうべきのものであり、原告のように納品書綴、領収証綴、判取帳、請求書綴、給料明細書、入金明細書綴、価引証明書綴、委託加工納品書綴、東京出張所綴、税務関係綴、経費明細書綴、勘定科目別明細書、仕入帳、売上帳等実額計算が可能な程度の帳簿書類を備え付け、その内容が完全ではないとしても乱雑、不正確極まりないといつた事実はなく、しかも被告の調査にあたつてこれらの帳簿書類を提出した場合には推計課税は許されないというべきである。

2. 抗弁2.の事実中、(一)の基礎、配偶者、扶養、社会保険料の総控除額が二八万八〇〇〇円であること、(二)の原告の商品販売収入額が一億三一八四万四八八〇円であることは認め、その余は否認する。

仮に推計課税がやむをえないとしても、被告の行なつた方法は多数法則に従い形式的な算術計算によつて行なつたもので妥当性を欠き合理的とはいえない。推計計算にあたつては、原告の帳簿書類に記載された実額を基礎としてこれに各種係数を加減操作するなどして極力実額に近いものを把握するよう努めるべきであり、殊に原告は昭和三七年八月以降はほぼ完全な帳簿書類の備付け、記録、保存を行なつていたものであるからこれを基準として他の期間の不明分を推定すべきものである。すなわち、原告の昭和三七年分の収支明細は次のとおりであり、差引き二四七万六八三四円の損失である(原告が確定申告にあたつて所得金額を一〇〇万円としたのは当時収支決算が未了のため損失の結果が不明であつたので外形上の体裁の意味も加えとりあえず抽象的概算により計上したものである)。

収入関係

(1)  商品販売代金(実額) 一億三一八四万四八八〇円

(2)  雑収入(実額) 一万八〇〇〇円

(3)  期末棚卸製品価格(実額) 二二三四万七二二〇円

(4)  期末棚卸材料価格(実額) 五八二万七六五八円

合計 一億六〇〇三万七七五八円

支出関係

(1)  期首棚卸主副材料価格 一九九五万六八三五円

右期首棚卸主副材料価格は、商品販売代金に材料比率七三・五五パーセント(主要製品五種について、 原反価格×歩取=原布価、原布価+附属価=材料費、材料費÷売値=材料比率 を試みその平均値を採用したものである。)を乗じて得た材料費に期末在庫製品、期末在庫主材料を加算し、これより主材料費、副材料費、染工賃を減算して算出した。

(2)  主材料費(実額) 九六五八万三三九二円

(3)  副材料費(実額) 四三七万六八五一円

(4)  工賃 二一〇万五〇八七円 うち実額分 一八〇万五〇八七円 推定分 三〇万円

(5)  染工賃(染色工場労務者等に対する賃金等) 四二二万九七〇九円

(6)  外注工賃(下請企業等に支払つた請負代金等) 一六七三万九四一五円 うち実額分 一一二三万九四一五円 推定分 五五〇万円

(7)  給料手当(事務、販売関係等職員に対する給料等) 一二八万八四二六円 うち実額分 一〇七万八四二六円 推定分 二一万円

(8)  法定福利費(各種社会保険料等) 二〇万八五六一円 うち実額分 一九万三二六一円 推定分 一万五三〇〇円

(9)  福利厚生費(従業員に対する福利厚生のための諸費用) 二四万六二九六円

(10)  消耗品費(筆墨油脂その他消耗品代金) 六五万一九四七円 うち実額分 五九万一九四七円 推定分 六万円

(11)  賄費(従業員に支給した食事代金等) 実額 五二万八〇四三円

(12)  修繕費 三一万三四七三円 うち実額分 二九万五四七三円 推定分 一万八〇〇〇円

(13)  償却費(建物、諸機械、設備等の償却費) 九九万三七八八円

(14)  保険料 一二万七七四七円

(15)  旅費交通費(推定額) 三六〇万円

(16)  通信費 一五万三八二八円 うち実額分 九万八八二八円 推定分 五万五〇〇〇円

(17)  電力費 三万八三八二円 うち実額分 三万二一八二円 推定分 六二〇〇円

(18)  水道光熱費 一六万二五七八円 うち実額分 一四万八五七八円 推定分 一万四〇〇〇円

(19)  運搬費(実額) 一一三万一六七〇円

(20)  荷造梱包費(実額) 二八万六六七五円

(21)  広告宣伝費(実額) 五〇万二五〇〇円

(22)  公租公課 一五万〇四六〇円 うち実額分 一四万〇四六〇円 推定分 一万円

(23)  接待交際費 五八万五九〇九円 うち実額分 二二万五九〇九円 推定分 三六万円

(24)  雑費 一七万一六九八円 うち実額分 五万一六九八円 推定分 一二万円

(25)  利子割引料(推定額) 三〇〇万円

(26)  燃料費(実額) 一八万七五九六円

(27)  東京経費(東京出張所の運営上に要した諸経費) 三六五万五四八六円 うち実額分 二一〇万五四八六円 推定分 一五五万円

(28)  手数料(推定額) 七万二〇〇〇円

(29)  貸倒損失(実額) 四六万六二四〇円

合計 一億六二五一万四五九二円

五、原告の推計計算に対する被告の反論

原告の主張する昭和三七年分の収支内容のうち支払明細が不明でありかつ合理的根拠のないものは次のとおり総額一三八九万一四八六円にのぼつており、またその損益計算にあたつてリベート収入の一部を除外し、架空経費を計上しまた計算内容に誤りがあるものは次のとおりである。

(一)  支払の明細が不明でありかつ合理的な推計根拠のないもの

(1) 外注工賃(原告主張支出(6))

原告計上金額一六七三万九四一五円のうち六〇〇万円

(2) 旅費交通費(原告主張支出(15))

原告計上金額三六〇万円全額(被告は、原告の昭和三七年八月分から同年一二月分までの原告計上額三五万五三八八円を月割したうえ一二を乗じて同年度分を八五万二九三〇円と推定した。)

(3) 東京経費(原告主張支出(27))

原告計上金額三六五万五四八六円全額

原告は、昭和三三年頃から東京都千代田区神田松枝町一番地において衣料品の小売業を営む訴外有限会社大貫商店の店舗を借り受けて東京出張所を設け、駐在責任者を一名、駐在員を一名ないし二名配置して、関東、東北、東海地方一円の繊維業者に商品を卸売りしていたが、原告名の看板は対外的理由から掲げなかつた。

大貫商店の代表者大貫代三は、自己の会社の営業を担当するかたわら原告の東京出張所開設以降同出張所が台東区浅草橋に移転した昭和三八年二月頃までの間、同出張所の経理担当者として帳簿の記帳一切を担当し、大貫商店分と同出張所分を判然と区別して売上、仕入、経費を整理、計上して決算していた。そして、大貫商店の昭和三六事業年度(昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日まで)分の決算書によれば、東京出張所分としての決算上の総経費は一二九万〇八一〇円であるので、仮にその全額を本件係争年分の東京出張所分経費とみてこれに右経費以外の同出張所の経費である人件費七〇万円ないし八〇万円、アパート代一八万円、店舗家賃五七万六〇〇〇円を加算しても同出張所の総経費は二八〇万円ないし二九〇万円にすぎず、原告の主張する推計による総経費三六五万五四八六円はなんら根拠のない不当なものといわざるをえない。

(4) 交際費(原告主張支出(23))

原告計上額五八万五九〇九円のうち三六万円

(5) 雑費(原告主張支出(24))

原告計上額一七万一六九八円のうち一二万円

(6) 福利厚生費(原告主張支出(9))

原告計上額二四万六二九六円のうち六万円

(7) 消耗品費(原告主張支出(10))

原告計上額六五万一九四七円のうち六万円

(8) 通信費(原告主張支出(16))

原告計上額一五万三八二八円のうち三万六〇〇〇円

(二)  原告のした損益計算の内容に誤りがあるもの

(1) 雑収入

被告調査金額一六〇万〇五八二円

原告は昭和三七年六月頃より東洋紡績株式会社の新製品エクスランリベラジヤージーを材料とした製品の製造を行ない、そのリベートとして右東洋紡績株式会社の代理店である青木商事株式会社、児島綿業株式会社から収入した別表1の雑収入一五八万二五八二円を計上していないから、これに原告計上額一万八〇〇〇円を加算した。

(2) 主材料仕入高(原告主張支出(2))

原告計上金額九六五八万三三九二円

被告調査金額九五五四万四三五八円

原告の計算は児島綿業株式会社よりの仕入金額を一〇三万九〇三四円過大計上している。

(3) 期首棚卸主副材料(原告主張支出(1))

原告計上金額一九九五万六八三五円(原告の計算のうち期末商品中に含まれる材料費部分を改算して計算すると一六一三万九九一九円となる)

被告調査金額七六三万六〇四五円

原告は一部計算を誤つており、さらに製品売価に対する材料費率七三・五五パーセントも真実性がないので、原告と同規模の同業者の平均材料費率六四・一パーセントおよび製品売価に対する製品原価率八三・二パーセント(別表2)により別表3のとおり推計した。

(4) 借入金利息・割引料(原告主張支出(25))

原告計上額三〇〇万円は概算であるが、被告計算によると別表4のとおり実地調査によつて、二六八万五三五六円となる。

(5) 支払地代家賃

被告調査によると東京店舗の支払家賃七二万円がある。

(6) 貸倒金(原告主張支出(29))

原告計上額は四六万六二四〇円であるが、被告計上額は別表5のとおり一八二万二三〇〇円となる。

第三、証拠

一、原告

1. 証人風間謹子、同森安生郎(第一、二回)、証人佐藤一郎、原告本人

2. 乙第一号証の一、第六号証の一ないし九、第七、第八号証の各一、二、第九、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二号証、第一三号証の一、第一四号証の一ないし三、第一五号証のうち大貫代三の署名押印部分を除くその余の部分、第一六号証の一ないし五の成立は認め、第一号証の二ないし九、第二、第三号証の各一、二、第四、第五号証、第一五号証中大貫代三の署名押印部分の成立ならびに第一三号証の二ないし五の原本の存在および成立は知らない。

二、被告

1. 乙第一号証の一ないし九、第二、第三号証の各一、二、第四、第五号証、第六号証の一ないし九、第七、第八号証の各一、二、第九、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二号証、第一三号証の一ないし五、第一四号証の一ないし三、第一五号証、第一六号証の一ないし五

2. 証人広光喜久蔵、同吉川定登、同秋田輝雄

理由

一、請求原因1.、2.の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、抗弁1.について検討する。

成立に争いのない乙第九、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一四号証の一ないし三、証人佐藤一郎、同風間謹子、同秋田輝雄、同吉川定登の各証言および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は昭和三七年分の縫製品の製造販売等の事業に関し、金銭出納簿を備え付けず、また領収証、請求書、納品書の原始記録も保存していなかつたが、被告の調査に際しては、帳簿を全部焼いてしまつてみせることができないとしてその提出要求に応じず、非協力な態度を示したことが認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上のような事情のもとにおいては被告が原告の昭和三七年分の事業所得の金額を推計のうえ本件課税処分をしたことはやむをえなかつたというべきである。

三、進んで抗弁2.について判断する。

推計課税をするに当つてはその所得をできるかぎり真実に近似するように推計計算する技術方式を採用し、客観的にみてもつとも適切合理的と認められる方法によらなければならないものと解すべきである。

これを本件についてみるに、被告の採用した推計方法は抗弁2.(一)のとおりであつて所得金額算出の基礎となる収入金額は原材料額から推計されたものであるが、原告の昭和三七年分の商品販売収入金額は実額で一億三一八四万四八八〇円であることが当事者間に争いがないので、右金額をもとにして原告の所得金額を推計するのが前記抗弁2.(一)の方法によるより合理的であるというべきであるから、被告の抗弁2.(一)はその余の点を判断するまでもなく失当である。

然らば右収入金額をもとにして被告が抗弁2.(二)において主張するように原告と経済圏および経営規模を同じくする同業法人四社の収入金額に対する個人換算算出所得の割合の平均値を適用して推計すべきか、もしくは原告の主張するとおり昭和三七年八月以降の帳簿書類を基準として各費目の不明部分をそれぞれ推定したうえ損益計算方法によつて所得金額を算出すべきかいずれが合理的といえるかについて検討する。

そこで、まず、原告の主張する推計方法について検討する。

1.(一) 成立に争いのない乙第六号証の一ないし九、および前掲乙第九号証、同証人風間謹子、同証人佐藤一郎、同証人秋田輝雄の各証言、同原告本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

原告の計上する損金費目中旅費交通費、交際費、通信費、福利厚生費、雑費、消耗品費の各推定分はいずれも原告の営業を会社組織とした昭和三八年以降の実績をもとにして推定したものであるところ、昭和三八、九年頃は北海道にまで販路を拡張して売上が個人経営の頃よりは伸びていたのであるから会社組織となつた後の実績を本件の昭和三七年分にそのまま適用できないことはもちろんのこと、その実績をもとにどのようにして右推定分を算出したのか明らかでないから右推定分のうち旅費交通費についてはそれを月額三〇万円として推定した合計三六〇万円、交際費については月額三万円として推定した合計三六万円、通信費については、切手代月額三〇〇〇円として推定した合計三万六〇〇〇円、福利厚生費については月額五〇〇〇円として推定した合計六万円、雑費については月額一万円として推定した合計一二万円、消耗品費については月額五〇〇〇円として推定した六万円はその合理的根拠が不明であるといわなければならない。

(二) また、右各証拠によれば、外注工賃は、原告計上金額一六七三万九四一五円のうち六〇〇万円が推定による金額であるが、その推定分は原告の昭和三七年中の縫製品製造量から見当をつけて推定されたもので、ばく然とした概算であつて算出の具体的根拠が不明であるから合理性を欠くものと認められ、これをたやすく是認することはできない。

(三) 東京経費についてみるに、前掲乙第一一号証の三、成立に争いのない乙第一二号証、第一六号証の二、弁論の全趣旨により原本の存在および成立の認められる乙第一三号証の二ないし五、大貫代三の署名押印部分は弁論の全趣旨によりその成立が認められその余の部分の成立は争いのない乙第一五号証、証人森安生郎の証言(第一、第二回)、原告本人尋問の結果を総合すると次のとおり認められる。

原告は昭和三三年頃から、東京都千代田区神田松枝町一番地において衣料品販売業を営む訴外有限会社大貫商店の店舗を借りうけて原告の東京出張所を開設し、駐在責任者一名のほか駐在員一名ないし二名を配置して関東、東北、東海地方一円の繊維業者に縫製品を販売し、同出張所が都内の浅草橋に移転した昭和三八年二月頃まで神田の右店舗で営業を続けた。その間大貫商店の代表取締役大貫代三は同商店の営業に携わるかたわら、同出張所の経理担当者として駐在責任者の監督のもとに帳簿の記帳を担当していた。そして、当初からの原告と大貫商店との了解にもとづき大貫商店の損益計算書には原告の東京出張所の損益をもあわせて計上したが、売掛帳、仕入帳、経費帳、現金出納帳には判然と区別して記帳していた。ところで、大貫商店の昭和三六事業年度分(昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日まで)の経費は二三三万〇四三六円であるが、そのうち大貫商店分が一〇三万九六二六円、原告の出張所分が、一二九万〇八一〇円であり、また同店の昭和三七事業年度分(昭和三七年八月一日から昭和三八年七月三一日まで)のそれは一七一万三七五一円であるが、そのうち大貫商店分が七七万八八一〇円、東京出張所分が九三万四九四一円であつた。さらに右経費に含まれていない東京出張所分経費として人件費、アパート家賃、店舗家賃があり、昭和三七年中におけるそれらは人件費が七〇万円ないし八〇万円、アパート家賃が一八万円、店舗家賃が五四万円であつた。

ところで、本件係争年分の期間は昭和三七年一月一日から同年一二月末日までであるから、右認定の昭和三六年八月一日から昭和三七年七月三一日までの分として計上された東京出張所経費一二九万〇八一〇円、同年八月一日から昭和三九年七月三一日までの分として計上された東京出張所経費九三万四九四一円をもとにしても右係争年分の東京出張所経費の具体的数額を算出することはできないが、仮にそれが右の一二九万〇八一〇円に達したものとみても、これに右認定の昭和三七年中の人件費等を加算して合計二七一万〇八一〇円ないし二八一万〇八一〇円程度に止まり、原告が計上する三六五万五四八六円とは相当のへだたりがあり、したがつて原告の右計上金額は合理的根拠を欠く。

(四) 以上のとおり原告計上の右損金額は合理的根拠を欠くものであるところ、これを左右するに足る事情を認めうる証拠はない。

2. 原告計上の損益費目中その額に誤りがあるものは左記認定のとおりである。

(一)  雑収入について

成立に争いのない乙第七号証の一、二によれば、訴外児島綿業株式会社が原告の昭和三七年一月一日から同年一一月末日までの間の東洋紡エクスランリベラジヤージーの仕入れに対して支払つたリベート金額は生地代として七七万七〇九四円、販売促進代として二五万九〇三二円、ミシン代として五一万八〇六四円であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

また、成立に争いのない乙第八号証の一、二によれば原告はカネカロンエルフの仕入れに係るリベート収入として訴外児島綿業株式会社から二万八三九二円を受け取つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかるに、原告は雑収入として一万八〇〇〇円を計上するのみで、右認定に係るリベート収入額合計一五八万二五八二円を雑収入として計上していないので、これを加算すると、結局原告の雑収入は一六〇万〇五八二円に達するものといわざるをえない。

(二)  主材料仕入高

前掲乙第七号証の一、二によれば次のとおり認められる。

訴外児島綿業株式会社が原告との主材料の取引により昭和三七年中において原告から支払いを受けた額は四九四三万四〇〇七円であるが、そのうちには昭和三六年分の売上残額五五万三四七二円が含まれているのでこれを控除したうえ、昭和三七年末における売上残額二万七九七五円を加算すると四八九〇万八五一〇円となる。

ところで、前掲乙第六号証の九によれば原告は児島綿業株式会社よりのリベラジヤージー以外の主材料仕入高を四九九四万七五四四円として計上していることが認められるからその余の計上額を正当とみたとしても右認定金額との差額一〇三万九〇三四円を過大計上しているものといわなければならない。したがつて、原告の主材料仕入高はたかだか原告計上金額九六五八万三三九二円から右過大計上分を控除した九五五四万四三五八円にすぎないものといわなければならない。

(三)  期首棚卸主副材料

証人広光喜久蔵の証言およびこれにより成立の認められる乙第一号証の二ないし九、第二、第三号証の各一、二、第四、第五号証を総合すると原告と経済圏ならびに経営規模を同じくする同種法人四社の原材料費率の平均値は六四・一パーセント、製品売価に対する製品原価率の平均値は八三・二パーセントであり、いずれも信頼するに足るものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。そこで、原告主張の期末材料在高、期末製品在高、副材料仕入額、当事者間に争いのない売上額、前記認定にかかる主材料仕入額、製品売価に対する材料費率、製品原価率によつて期首材料在高を算出すると、それは別表3のとおり七六三万六〇四五円となり、原告が製造売価に対する材料費率を七三・五五パーセントとして期首棚卸主副材料を算出したのは右材料比率の根拠が不明であつて真実性に乏しい。

(四)  借入金利息、割引料

成立に争いのない乙第一六号証の一、前掲同号証の二によれば原告が被告主張の別表4のとおりの利息を支出していることが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、原告の計上金額三〇〇万円は誤りであつて、二六八万五三五六円が正当というべきである。

(五)  貸倒金

前掲乙第一六号証の一、二によれば昭和三七年中に確定した原告の貸倒金は被告主張の別表5のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

3. 以上1.・2.のとおりであるから原告の主張する推計はその合理性を欠くものといわなければならない。

4. そこで、被告が主張するように広島国税局算出の所得標準率をもつて推計する方法が客観的にみて妥当かつ合理的であるかどうかを検討するに、前掲乙第一号証の二ないし九、第二、第三号証の各一、二、第四、第五号証、証人広光喜久蔵の証言を総合すると、右所得標準率九・二パーセントは、広島国税局大蔵事務官が原告と経済圏ならびに経営規模を同じくする同業種法人四社の経理内容を分析・解析したうえ右四法人の各収入金に対する各個人換算算出所得の割合の平均値を求めて算出したものであつて信頼するに足るものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

してみると、被告の主張するとおり広島国税局算出の右所得標準率を適用して原告の所得金額を推計するのがもつとも合理的であるといわなければならない。そこで、この推計方法にもとづいて原告の昭和三七年分の所得金額を算出することとする。

原告の商品販売収入額が一億三一八四万四八八〇円であることは前記のとおりであるからこれに対して右所得標準率九・二パーセントを乗じて算出所得を推計すると一二一二万九七二八円となる。ところで、原告の標準外経費(右標準率に加味されていない経費)は雇人費が一二一万三〇〇〇円、減価償却費が三四万〇六八八円、地代家賃が七二万円であることが前掲乙第一六号証の一、二により認められ、また借入金利息、割引料が二六八万五三五六円、貸倒金が一八二万二三〇〇円であることは前記認定のとおりであるからその合計六七八万一三四四円を右算出所得額から控除したうえ前記認定の雑収入一六〇万〇五八二円を加算して所得金額を算出すると六九四万八九六六円となる。

してみると、原告の所得金額を前記認定の範囲内の額であるとしてなされた本件更正処分およびこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法というべきである。

四、よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 白川清吉 裁判官 池田克俊)

別表1

<省略>

別表2

<省略>

(単純平均0.832)

別表3

(1) 期首材料在高 不明 期末材料在高 5,827,658

期首仕掛品在高 0 期末仕掛品在高 0

期首製品在高 0 期末製品在高 22,347,220

<省略>

売上額 131,844,880

(2) 製品の売価に対する材料費率 64.1%

製品売価に対する製品原価率 83.2%

(3) 期首材料在高 6,597,011

<省略>

別表4

借入利息、割引料 2,685,356円

<省略>

別表5

貸倒金 1,822,300円

<省略>

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